年末年始の大掃除で一番好きだったこと

私が小学生の頃、社宅から一軒家に引越をした。
父が一大決心をして、持ち家を買ったのだ。

小学校の途中で転校することになった自分は、
新しい家への引越をあまり嬉しいと思わなかった。

新しい家はとても綺麗で、社宅にはなかった自分専用の部屋も作ってもらった。
それでもやっぱり私は、
前の古い家から小学校に通って、友達と一緒に卒業をしたかった。

もちろんそれは叶わない願いで、
後ろ髪を引かれる思いで古い家を後にしたことをよく覚えている。

新しい家での一番の楽しみは、大掃除だった。
年末年始の時期になると必ず、家族総出で家中の大掃除をするのだ。

部屋の中から始まり、窓ガラスやベランダなど、
普段は掃除をしないところまで丁寧に磨き上げる。

真冬の寒い時期に冷たい水を使って窓ガラスの拭き掃除をするのは、
確かに手が冷たくて大変だったし、
上の方まで手を伸ばそうとすれば肩が痛くなった。

それでも家の中がどんどん綺麗になっていくのが楽しくて、
大掃除を苦に思ったことはなかった。

年末年始の大掃除で一番好きだったのは、
床のワックス掛けだった。

動かせる家具は全部動かして和室に押し込み、
フローリングの部屋にはできる限り何も置かれていない状態にする。

まずは普段と同じように掃除機をかける。
そこから先が、年末年始の特別行事だった。
床を丁寧に水拭きした後、ワックスを含ませた布で床を端から磨いていく。

自分が磨いた場所には乗らないように、
後ろ向きに下がりながら床を拭いていくのだ。
最後に玄関か和室に上がり込めば、完了。

あとはワックスが乾くまでの間、窓を開け放して待つだけだ。
ワックスが乾くと、フローリングの床がきらきらと輝いているように見える。
新しい年が来るのだと、子供心にわくわくしたものだ。

今では父も母も年を取り、
私が子供の頃にしていたような大掃除はしなくなった。

毎日の掃除である程度の汚れを落としておいて、
あとは気になるところだけ少し念入りに磨く程度。

フローリングの床は以前のようにきらきらと輝くことはなくなった代わりに、
あちこちに残っている傷が不思議といい味を出していて、
深くて艶やかな輝きを見せてくれる。

私が子供から大人になったように、
家もまた成熟したということなのかもしれない。